第一 基本調理 一、火の焚き方

第一章 調理一般の心得

第一 基本調理

 一、火の焚き方

 薪、石炭等を焚くとき、空気をこれら燃料の全面によく流通せしむるときは、煙少なく勢いよく焔を上げ火力強きも、これに反し空気の流通不完全なるときは、煙多くして火力弱きものなり。前者を完全燃焼と謂い、後者を不完全燃焼と称す。されば火の焚き方の要訣は空気の流通を良好にして完全燃焼を行わしむるにあり。而して完全に燃焼せしむるは、その燃料の含む熱量を最も有効に使用するものなるをもって、また燃料節約の秘訣と謂うべし。

 左に火の焚き方に関し注意すべき細目を述べん。

 一、すべて七輪、竃等は風口「ロストル」〔(鉄製の)火格子〕を付し、なお石炭、薪を使用する場合にありては煙突を備うるを可とす、而してこれらは使用前にじゅうぶん灰出し掃除を行い、もって通気を完全ならしめ、吸込みを良好にして完全燃焼せしむること肝要なり。

 二、すべて燃料と鍋底との間には相当の距離を置き、焔が鍋釜の底をようやく包む程度を可とす。これ火焔中最も熱高きはその中心にあらずして外部なればなり。

 三、鍋釜の底部は熱を吸収するに都合よきよう、自然に油煙にて汚れたるまま、もしくは塗料をもって黒くし置くを可とす。ピカピカに磨き上ぐるは不可なり。

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 四、点火後は竃の焚き口を閉じ、風口のみ開きて過度の通気を防ぐべし。これ完全燃焼のためには通気良好なるを要するも、通気過量なるときは熱を散逸せしむるのみならず、竃内の冷却により、かえって不完全燃焼を起すものなればなり。

 五、薪、石炭等は一時に多量投入すべからず。薪は割り薪なるときは皮の方を下にし、常に五、六本竃内に在るを適度とす。生薪使用時は細く割り、または敲き潰して点火すべし。石炭は「ロストル」上に平らに散布し厚く重ねず、またあまり少量ずつたびたび投入するは不可なり。一回の投入量は「スコップ」に三杯位を適度とす。

 六、燃料はすべて乾燥じゅうぶんなるを良しとするも、石炭の表面灰白色に乾燥して、その粉炭が風に飛散するごときは不経済につき、使用に際し少量の水を散布するを可とす。

 七、瓦斯に点火する際は「マッチ」を先に摺り、のち「コック」を開くべし。瓦斯ロは常に掃除を叮嚀にし、錆付かざるよう注意を要す。

 八、火を消すには風口を閉じるか、または火を掻き出し、けっして竃、七輪等に水を注ぐべからず。

 九、煮物は一度沸騰せば特別の目的ある場合のほか、直ちに火力を弱め沸騰を続くる程度に火を焚くべし、これまた燃料節約の要訣なり。

 一〇、直火を用いて調理する場合においては焚き落し、残り火等は水をもってよく消火し、なお灰の処分、灰置き場所等に到るまで充分火気の注意を要す。

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 瓦斯

 瓦斯使用部隊にありては鉛管、螺旋管、ゴムソケット等接続個所を随時点検し、少量にても漏洩の部分は直ちに修繕するを要す。而して毎調理後は必ず屋外開閉器(メートル備え付け場所)を正確に閉塞すべし。

 電気

 漏電にたいしては絶縁部に注意すべし、絶縁部の損障理由および注意を簡単に述ぶれば、水タンク、蒸気導管ならびに蒸気釜付近の絶縁体は湿気のため損じ易きものなれば注意を要す。さらに電線を鉄パイプ中に通じたるものはその両端をテープその他にて厳重に閉塞すべし。すなわち両端を開放しおくときは、湿気浸入のため鉄管中に水滴を生じ危険の因となる、また電線に黴の生じたる場合も同じ、なお鼠害による損障個所、碍管(陶器製管)の割れたるもの、取れたる個所は直ちに新品と取り替え、また電熱器を備うる部隊にありては、使用後必ず開閉器を遮断すること瓦斯と同じ。

 以上の条件に対して充分の注意を要す。