第一 基本調理 四、切り方2

 ハ、魚類の下ろし方

 普通の魚類を下ろすにはまず鱗を去り、次に鰓と腹とを取り出し水洗いす。而して頭部を去るものにありては、鱗を取り、のち刎ぬるを順序とす。

一、鱗の取り方

 左図のごとく頭部を左に腹を手前にし(これを魚の表という)、左手にて頭を押え庖丁の刃にて尾より頭の方へ軽くこき上げ、次に裏返して前のごとくす。鱗取り器を用うる場合は、頭を手前にして魚を縦に置き、尾より頭の方へこき上ぐべし。

二、鰓の抜き方

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右図のごとく頭を右に腹を手前にし、左手にて魚を少し起し加減にしながら、食指〔人差指〕と拇指〔親指〕にて両鰓蓋を押し拡げ、大魚ならば庖丁の刃先にて鰓の上下の釣を切り、のち手にて引き出し、小魚ならば庖丁を用いず単に指先にて上釣を切り、引き出すものとす。

三、腸の出し方

 腸を出すには咽喉部より腹の中央肛門まで庖丁を入れて引き出すべし。腸を取り出さば清水にてよく洗い、次に適宜の調理を行うものとす。

四、頭の取り方

 頭を取り去るには、まず側鰭を切り去り、鰓の下釣の部分を切り、次に鰓蓋に沿いて頭に庖丁を入れ、切り去る。

五、下ろし方

 通常行わるる魚の下ろし方は二枚下ろし・三枚下ろし・背開き・跳切り・筒切り等なり。

二枚下ろし

 まず頭を去り腸を出し、頭の方を右に、腹を手前にし、肛門より軽く庖丁を入れ、さらに魚を手前に返し、頭の付根より背骨に沿いて軽くかつ浅く庖丁を入れ、皮を切り置き、次にいま一度深く庖丁を入れ、切り離す。

三枚下ろし

 二枚に下ろしたるものをさらに裏返して前と同様片身を下ろし、中骨と身との三つとなし普通刺身用とす。

背開き

 頭を右にし、背を手前にして頭の付根、背より骨に沿いて尾まで軽く庖丁を入れ、次にいま一度深く庖丁を入れて開き、最後に頭部を割る。

跳切り

 庖丁を斜めに右に寝かし加減となし、左方より順次切り取る。

筒切り

 まず頭と腸を除き、次に頭の方より木口切りとす、小魚、鯉等は頭、腸等を取り去ることなく、そのまま木口切りにすることあり。

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 ニ、鳥の屠殺および捌き方

 鳥の種類、大小、調理の目的により、その屠殺および捌き方に種種あるも、左に鶏について述べん。

一、屠殺法

 およそ食用動物の屠殺は脱血を良くし、かつ苦しめて殺さざるを最良の方法とす。ゆえに鶏の屠殺にあたりては、まずその羽と羽とを後方に組み合わせ、両脚と尾とを左手にて握り、鶏が動作のできざるごとくなし、頸動脈を切るかあるいは首を切り落して逆様に持ち、じゅうぶん脱血すべし。

二、毛抜き法

 次に摂氏八十度内外の熱湯に、三十秒位浸したるのも、手にて毛を抜き去り、さらにこれを新聞紙、藁等焔の長き火の上にかざして毛焼きを行いたるのち、ちょっと水洗いす。

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三、捌き方

 まず左方股間に庖丁を入れて皮を切り、右手にて腹部を圧え、左手にて脚を握り左腹・背の方向に押し開き、骨と骨との接合部(そこに白く見ゆるもの)に庖丁を入れ、腱を切り離し、次にその周囲の皮を切り置き、脚を体より引き離す、右方の脚も同様とす。

 次に鶏の素嚢〔鳥類の食道の後端にある袋状の部分〕を去り頭部を右にし、背を手前にして左方の肩近くにある骨と骨との接合部に庖丁を入れて切り離し、その部分より背および腹にかけて楕円形に皮を切り置き、肢を体より引き離す。右方も同様とす。さらに両肩にある骨と肋骨との間に庖丁を入れ、胸骨と背および腹部とを引き離す。

 以上にて鶏体を五つの部分に分かちたるをもって、その後は調理の種類に応じ、肉を細切りして用う。

 ホ、豚の屠殺および捌き方

一、屠殺法

 豚を屠殺するには、まず四足を結束し右脇を下にして横臥せしめ、頭の上部、耳との中間の少しく下方にある凹みたる所を屠槌、薪割りの背等をもって打ち殺すかまたは屠殺銃をあてて射殺す。

 しかるのち直ちに刀をもって下頸部を縦に五、六寸〔約一五センチないし一八センチ〕開き、刀尖を深く腹腔内にさし入れ、心臓を刺し、十分に脱血せしむ。

二、皮剥法

 屠殺を終れば直ちに摂氏八十度以上の熱湯を入れたる桶の中に約五分間全身を浸し(野外等にて桶なきときは注ぎかけ)たるのも、刀の背もしくは竹べら等のごとき物にて毛および垢を掻き落す、これを湯剥法と称す。熱湯なき場合はまず両股の内側に傍うて浅く庖丁を入れ、脂肪と皮との間を削きてまず両脚を剥ぎ、のちに腹部、肩におよぶ、これを前者に比して皮剥法という。羊、猪、兎、牛、馬等は皮剥法によるものとす。

三、頭および内臓の除去

 次に鋭利なる刀をもって顎縁に沿いて切り込み、頭部の関節を切り離したるのち頭を持ち、捻るごとくして取り去る。次に腹へ縦に庖丁を入れ、腹壁を切り開き置き、内臓を傷つけざるよう特に注意しつつ腰骨の接合部および胸骨を鋸にて挽き切り、内臓を掴み出し、清水にて良く洗い、布巾にて水気を去りたるのち、肢を吊す。

四、捌き方

 まず鋸または薪割りをもって背骨を縦に切り下げ二分体とし、さらに一分体は肋骨の五、六枚目の間より切り、都合四分体となす。しかるのち調理の種類に応じ肩肉・腿肉・ばら肉・ロース等に断肉して用う。

 へ、獣肉の切り方

一、骨はがし

 まず骨付き肉(枝肉という)の各関節に庖丁を入れ、その周囲の肉を切り開き、関節を接合する腱を切りて数個の骨付き肉塊となす。

 次に肉塊中、骨肉面に切先を当てつつ骨に沿いて切り下ぐ、しかるのち肉を押し開き、庖丁の刃先にて骨を削るがごとくして、肉と骨とを離しつつ骨に沿いて切り進む、この際庖丁は全握(要すれば逆手)し、常に手前に引き加減に使用するものとす。

二、肉の仕分け方

 骨を取り去りたる肉塊をまず脂肪肉と赤肉とに分かち、次に赤肉はその表面を走る白き膜の部分に庖丁を軽く入れつつ数個に切り離すべし、豚肉、羊肉等腱の軟かき肉にありては、牛肉のごとく細かく仕分ける必要なきも、かくすればいっそう軟かくなるものなり。

三、切り方

 まず肉塊より白き筋(腱膜および筋膜)を取り去るには、肉と筋との間に庖丁を入れ、筋を摘みて手前に引きつつ、庖丁を押し加減にしながら肉より筋をコソゲ取るべし。

 筋を取り去りたる肉塊を細切りするには、まず肉目(肉繊維という、内面に見ゆる筋目)に並行(縦)に適当の大きさに切り、次に肉目に直角(横)に切るものとす。すべて肉を切る際庖丁の使い方は、はじめ半ば切るまでは押し加減に、あとは引き加減に切ると切り易し。また鳥肉のごとき皮付きの肉を切るには、皮の方を下にして切るべし。

 ト、切り方に関する注意

 野菜類、肉類の切り方にあたり安全を期するには、基本的庖丁の持ち方、姿勢等を前記要領によりじゅうぶん練習し、指は切らんとする食品にたいし指先を揃えて第一関節にて食品を押え、第二関節をほぼ垂直に突き出し、中指を定規として庖丁を当てて切るべし。いかなる場合においても爪先を前に出して切るは危険多し。

 また庖丁にかぎらず器具は常に清潔にし整然たるべし。たとえば肉を切りて、ヌラヌラ脂の付着したる庖丁は滑りて危険多し。また物を切る手順を考うべし。食品を右に置き、切りたるものを左へ送る等は非能率なるのみならず危険多し。

 次に動力刃物にたいしては給油、掃除をよく行い、これを使用する前、必ず動力の動静を試してのち、作業にかかるべし。而して動力を掛けるに必ず合図をなすを要す。