第一 基本調理 五、茄で方

五、茄で方

 食品を「ザット」湯煮するを「茄でる」という。而して食品を茄でる目的は、硬き食品を軟かにし、臭味を取り、または灰汁を脱く等調理の準備作業なるも、ときに茄でたるものをそのまま直ちに食用に供することあり。たとへば「菜びたし」〔一七七頁参照〕のごとし。

 しかれども食品を茄でるときは栄養分を損失し、手数を増し、燃料不経済となる等の不利あるをもって、軍隊調理に際しては和え物その他特に茄でる必要ある場合のほか多く用いざるものとす。

イ、野菜類の茄で方

一、野菜類

 熱湯に投じ、蓋をせず直ちに棒をもって上下に攪き廻し、ふたたび沸騰したるとき手早く笊に取り揚ぐ。

 茄で上げたるのちこれを冷水に浸すときはさらにじゅうぶんに灰汁を脱き、冷却を速やかならしめ、調理時間を短縮し、出来栄え良好なるも栄養分を流出するの不利あるをもって、なし得れば水に浸さざるを良しとす。

 すべて青菜類を茄でるには少量の食塩を加え、少量ずつ数回に茄でるを可とす。しかるときは青色を保ち、かつ出来栄えよし。

二、その他の野菜類

筍 皮付きのまま米糠を入れたる微温湯に投じ、大小によりて差あれども約四十分間位茄で、縦二つ割りとなし皮を剥くを良しとす。

里芋、馬鈴薯 覆うほどの水を入れ、強火にて茄で、やや硬き程度にて取り出す。

芋茎 まず皮を剥きて適宜に切り、水に浸して灰汁を脱き、次に釜(多量の熱湯)に投じて一沸しす。而してその「エガラキ」を去るには少量の山椒の実を入れて茄でるを良しとす。

大根、人参 微温湯より投じ約十五分間茄で、その茄で水はそのまま使用するを良しとす。

牛旁 適宜に切りて水に浸し、灰汁を脱き、次に多量の微温湯に少量の米糠または米の淘ぎ汁を投じ、弱火にて約三十分間茄で、引き揚ぐ。

蓮根 微温湯に投じ、蓋をせずに約十五分間茄でて引き揚ぐ、蓮根の色を白く仕上ぐるには食酢また米糠を少量加うべし。

蕨、紫蕨、干物は多量の水に浸して開きたるとき、水と共に茄で、一沸しして鍋を下ろし、約三十分間蒸らしたるのち冷水に浸して灰汁脱きをなす。

蕨、紫蕨、生物にありては桶に入れ灰を振りかけ、その上より熱湯を注ぎ、しばらくして取り揚げ、のち冷水にてふたたび洗いて灰汁脱きをす。

干瓢、切り干し大根 水に浸し塵埃を洗い落し、多量の微温湯に投じて一沸しし、その茄で水を捨

つることなく用う。

豆類 新豆は熱湯に投じ約五分間(莢豌豆は約十五分間)茄で、古豆はまず皮が張る程度まで水または湯に浸したるのち、最初強火にかけ、いったん沸騰したるのちに火を弱め軟かくなるまで茄で、その茄で水は捨てずに調理するものとす。而して茄で水は最初は豆を覆う程度とし、ときどき差し水をなすを可とす。かくするときは外皮を破らずに軟かくなるものなり。

 *エガラキ〔えぐく、あくの強い味〕

 ロ、魚、鳥、獣肉類の茄で方

蛸、烏賊 干蛸は米の淘ぎ汁中に一夜浸し、これに微温湯を加えて茄で、生蛸は洗い(塩水にて良く洗い)、大根、里芋等を煮込み、共に茄でるを良しとす。するめは米の淘ぎ汁中に約一昼夜浸したるのち茄でる、生烏賊は生蛸に同じ。

棒鱈 少なくも三昼夜水に浸し置き、その間ときどき水を取り換え、「たわし」にてよく洗いたるのち適宜に切り、中火にて軟かくなるまで茄でる。

身欠き鰊 米の淘ぎ汁または灰汁中に約一昼夜浸し置き、「たわし」にてよく洗いたるのち多量の水を加え、中火にて軟かくなるまで茄でる。