第一 基本調理 六、煮方

六、煮方

 煮方は献立の種類および使用材料のいかんによりて異なり、水加減をなし材料の使用順序を立て、また火加減は煮熟時間等を異にすべきものなり。されば煮方にあたりて第一に汁物なりや、煮物なりや、また同じく煮物にても多汁性のものなりや否やに注意し、汁物は汁に味を付け、煮物はその材料に味付けするに重きを置き、汁物の材料は軟かく形を多少崩して汁を濃厚美味ならしむる場合多きも、煮物は成るべく汁を少なくし、形を崩さず、外観を整え、各個の材料にその本来の味を保有せしむるごとくすべきものなり。

 煮物にして、汁物のごとく汁多く、かつベタベタになり易きは、煮熟にあたり材料より水分の出ずることを忘れて水を余分に注入し、また煮沸中しばしば杓子をもって掻き廻すに起因するものなり。

 今煮方につき注意すべき諸点を述べん。

イ、火加減

 一、長時間煮るべき豆類のごときは、燃料節約上沸騰するまでは烈火(強火)とし、いったん沸騰したるのちは文火(弱火)とすべし。また火を消し、じゅうぶん蒸熟せしむを可とす。

 二、焦げ付き易きもの、または固まり易きもの、たとえば砂糖煮、飴煮、葛煮、味噌煮等のごときは文火とすべし。

 三、「シチュー」「カレー煮」ははじめ烈火とし、小麦粉または澱粉注入後は文火とすべし。

ロ、材料使用順序

 一、里芋、人参、大根のごとき煮え難き物を最初に入れ、豆腐のごとき煮え易きもの、または香味を尊ぶ葱等のごときは最後に入るるべし。

 二、調味品は材料の半ば煮えたるとき投入し、煮干のごとき「ダシ」の出悪き調味品は最初より入るるべし。

 三、砂糖、食塩、醤油、味噌のごとき調味品は、材料によりてはこれを固くなす性質あるをもって、一度材料を水煮したるのち入るるを良しとす。

 四、普通の場合醤油は最初八分を用い、残り二分は煮熟を終る直前に入るるか、または食塩にてこれを代用するときは、味良く、かつ賄費の節約となるものなり。色濃きを嫌う汁物にありては主として食塩を用い、わずかに醤油を入るるものとす。

 五、汁を目的とする肉は水より煮るべく、肉のみを美味ならしめんとせば沸騰より投入すべし。また汁と肉とを同時に美味ならしむる場合は、最初空炒りし、外面を固めたるのち野菜類と共に煮るべし。

 而して豚肉、羊肉のごときその臭いを嫌う場合は、いかなる目的の調理においても少量の葱、生姜と共にまず空炒りするを良しとす。

ハ、煮熟時間

 一、鍋に蓋をすることなく煮るときは、煮熟に時間を多く費すゆえに、普通の場合煮物には必ず蓋をなすべきものなるも、臭気を去る必要あるもの、汁を煮詰むるもの、あるいは色を保たしむるためには蓋をなさざるを良しとす。

 二、いかなる硬き肉も水より入れ、一時間以上二時間も煮るときは軟かくなるものなり。