第一 基本調理 九、揚げ方

九、揚げ方

 揚げ方とは食品を高熱にせる食用油に投じて調理するものを謂い、これに使用する油の量は、天婦羅、精進揚げ、フライ等のごとく深きものと、特殊の魚空揚げ等のごとく浅き場合とあり。

 而して揚げ方の要点は揚げ油に適当なる熱度(摂氏百六十―百八十度)を常に保持するごとく火加減をなすこと、および材料の投入に緩急よろしきを得ること、これなり。

 揚げ油の熱度百六十度以下なるときは揚げ方遅きのみならず「コロモ」は剥がれ易く揚がり色付かず、また百九十度以上なるときは材料の心部まで揚がらざるうちに表面黒焦げとなるのみならず引火の危険を増し、かつ、ために油沫あるいは煙となりて飛散して消耗量を増加す。また材料の含有する水分の量は、油の熱度に関係し、水分多きものは百九十度に近きを良しとし、水分少なきものは百六十度に近き方良し。

 左に揚げ方に関し注意すべき諸点を述べん。

 一、揚げ物はすべて直火とし、材料投入の時機を見るには、温度計をもって前述の適温を計るべきも、温度計なきときは揚げ鍋の側面より紫色の煙立ち昇り、食塩少量を投入すれば「ジュッ」と音を立つる熱度を良しとす。また一個試験材料を投入し置き、その揚がり色により判断するも

一法なり。

 二、揚げ油の熱度は常に適度に保持するごとく心掛くべきも、もし強過ぎたるときは差し油をなし、弱過ぎるときは火を強め、揚げ方を控えて調節するを良しとす。

 三、一度使用せし古油は、布片等をもって漉して貯蔵すべし。またこれを使用する際には腰を強めるため新油を混用すべし。

 四、水分を多量に含む材料は、なるべく水気を去りてのち、揚ぐるを良しとす。これがため甘藷のごときは暫時切り乾ししたるのち揚ぐるを普通とす。

 五、野菜のかき揚げ材料はなるべく一時に揚げ得るよう材料の選定および切り方に注意を要す。

 六、揚げ物中、「フライ」、天婦羅のごとく沈む材料は浮き上がりたるとき、「コロッケ」のごときいったん煮熟せる材料を使用せるものにありては揚がり色の付きたるとき取り出すべし。ま

た全く浮き上がらざるものにありては適宜取り出し、その一個を割りて見るべし。

 七、揚げ方にあたりて引火の原因を防止するはきわめて大切なることなり。まず竃と揚げ鍋の間に隙のなきよう設備を完全にし、また火を焚き過ぎて油を熱し過ぎること、さらに焚き口より

長き焔を出さぬよう煙突の吸い込みをよくし、あるいは竃の口元にて焚かざること等に注意すべし。万一引火したるときは鍋蓋(ピッタリ合う鍋蓋を常に揚げ物鍋の側に用意しておく)をなし

て消火し、けっして水を注ぐ等あわてるべからず。

 もし引火したる油に水を注ぐときはますます危険を加う、ゆえに引火の処置にたいしては沈着に行動し、火傷を負わざるようじゅうぶん注意すべし。