第一 基本調理 一二、飯の炊き方

一二、飯の炊き方

 飯の炊き方は炊事設備、燃料等の関係により一定し難きも、いま最も困難とする普通の直火炊事設備において、石炭焚きをなす場合において述ぶれば左のごとし。

(イ) 炊飯すべき米麦量の決定

 (1)釜の容積

 炊飯は「張り釜」を禁物とし、従って自隊設備の釜をもって幾何量炊くを最適当とすべきかを知るを要す、これがためまず釜の容積の八割にあたる鍔までの容水量を正確に計算せざるべ

からず、而してその容積は炊き上がりたる場合米麦の膨れる最大限度なり、而して普通の釜は鍔までの容積が約九十リットル位なりとす。

*張り釜〔米麦の炊き上がりの分量が、釜の鍔までの容積を越える場合をいう〕

 (2)米麦量決定算式

 すでに釜の容積を知らば、炊くべき米麦量は左の算式により算出することを得。

             釜の容積(たとえば90リットル)

   炊くべき米麦量=―――――――――――――――――=36リットル

             米麦の炊飯増量率(たとえば2+1/2)

 すなわち右の例にて三十六キログラム(一リットルは一キログラムにあたる)をもって最大限とし、これ以上を炊く場合は「張り釜」となり焦げ付きを生じ、また飯粒が釜蓋のために圧

せられ「フックラ」と出来上がらざるものとす。

 (3)炊飯増量率

 炊飯増量率幾何なるかは、米麦の品質、水加減等によりて差異あり、ゆえにときどき試験炊きを実施し、最も理想的な場合におけるものを正確に計算して定むべきなり。

 而して前記二倍半なる増量率は、飯盒にて米二食分(五七〇グラム)炊く場合一杯に増量す、而して飯盒の容積は約一・八リットル〔一升〕なるがゆえに二倍半の増量率と定めらる。

(ロ)水加減の決定

 (1)米麦にたいする水の分量

  水加減は米麦の品質により若干差異あるも、米麦を淘洗なし、水を切り置きたる場合において、大体において二割増量、最初の米麦の容量に対して二割増しとするを可とす(淘洗直後の

 ものも、一夜置きたるものにても殆んど差異なし)。

 (2)水の量り方

  水加減をなすには、目分量によることなく、バケツ、柄杓等の容積を正確に計量なし置きて、これを水桝代りに使用し、また柄杓の柄に目盛を付し、あるいは定規を作りて標準尺となし、

 これを釜の中に立てて水量の多少を吟味するをよしとす。

  また釜の内面に線を引き、飯盒と同様にこれによって水加減をするも一法なり。

(ハ)炊き方および蒸し方

  まず釜に所要の水を入れ、火を焚き、沸騰し来らばこれに米麦を投じ、片燃えせざるごとく 火廻りを良くし、強火にて焚き、ふたたび沸騰し来らば通風口を閉じ、火力を弱め(鉄板のご

 ときものにて燃火を蔽い、火気を弱むるも良し)、四、五分間後、重湯がすべて飯の中に引き取りたるとき釜を卸し、約十五分ないし二十分間そのまま蒸らし置く。

(ニ)良く出来上がりたる飯

 (1)飯の出来栄え

  かくして出来上がりたる飯は焦げ付き無く、飯粒の表面とその心部とは同一程度の軟かさにして「フックラ」と出来上がり、かつ表面に水分付着することなく、光沢ありてきらきらと光を

 発し、重湯も煮え溢れざるをもって滋養に富み、かつ炊き殖え多きものとす。

 (2)飯の量

  良く出来上がりたる飯量の幾何なるかは分配の標準となるのみならず、米麦の品質鑑定上必要のことなり。ゆえにまたこれを漫然と定むべきものにあらず、よっていま左に良く出来上が

 りたる飯の有すべき量目を示さん。

    炊飯量=米麦量ー淘洗減+水量―蒸発量

  いま米麦容量一八リットル〔約一斗〕(七分三)は一三・一二五キログラム、淘洗減は米麦量の百分の二として、水量は二一・六リットル(一リットルは一キログラム)、蒸発水量をその

 百分の十とし、右算式によれば

    炊飯量=13.125-(13.125×2/100)+21.600―(21.600×10/100)=32.203

  すなわち炊飯重量は三二・二〇三キログラムとなり、一人分は六四六グラム強となる計算なり。

  米麦量、水量、淘洗減、蒸発量を正確に計り、炊飯量の標準を定め置き、もし不足するときは品質、洗い方、釜蓋、焚き方等のいずれかに欠点あるべきをもって、徹底的に研究改善せざ

 るべからず。

 *七分三〔この場合、米と麦との容量比。すなわち7:3〕

(ホ)炊飯に関し心得べき事項

 (1)沸騰点と燃焼

  一度沸騰点(摂氏一〇〇度)に達するときは、普通釜においてはそれ以上に熱度上昇することなきものなるをもって、なお燃焼を続くるは燃料不経済なるのみならず焦げ付くおそれあり、

 薪焚きの場合、沸騰後直ちに火を引き、爾後蒸熟せしむるときは、最後まで火を焚くに比し約二割の燃料を節約し得るものとす。ゆえに沸騰後は燃火を引き去り、もし引き去ること能わ

 ざれば火気を遮断して竃および炊飯の自熱にて蒸熟せしむるを可とす。

 (2)釜蓋を取らざること

  無淘洗米を除くのほか、炊飯途中釜蓋を取り、掻き混ぜるがごときは拙の拙なるものにして、もしかくせざれば出来上がらざるときは「張り釜」なるか、または他に何か誤りたる点あるに

 よるものなり。

 *無淘洗米〔無砂搗研米のこと(四一頁参照)。淘がないでそのまま用いられる〕

 (3)充分に蒸らすこと

  普通十五分以上蒸らす必要あり、蒸らし方足らざるときは水引き悪しく「フックラ」と出来上がらざるものなり。

 以上を要するに炊飯は従来の目分量主義を排し、計量主義によるべきものなり。而して毎回計量の手数を省くためには、一度自隊における炊事設備にてじゅうぶん炊き方を研究しその標準方

法を定め置き、これを基準として毎回の炊飯を実施すべし。