第二 特殊調理 三、野外における調理
三、野外における調理
戦地または平時、野外における調理は、屯営〔本隊のたむろする所。陣営〕内における炊事場のごとき設備、器具を使用するを得ず、飯意および戦用炊具をもって個人または合同炊事を行う
ものなり。
イ、合同炊事
戦用炊具をもってする合同炊事中、副食物にありては、献立において野外炊事に適当なる種類を選定することを必要とするほか、その調理方法は屯営内における一般調理法と異なるところな
きをもってここに特に述べざるも、主食にありては平時多くの部隊において使用せざる平釜を使用し、薪または石炭にて直火炊事を行うものなるにより、左にその要領を述べん。
一、中釜を使用する場合
(1)平釜に水四五リットル〔二斗五升〕を入れ沸騰せしむ。
(2)中釜に米麦一〇・五キログラム〔八升〕を入れ、これを前記沸湯の中に入れ、約十分間煮る。
(3)中釜を下ろし、台の上に置き、水分を切る。
(4)平釜に新たに水約一八リットルを注加し、第二回を炊飯す。
(注)中釜を使用するときは、炊飯容易なるも、栄養分を流出するのみならず、洗い飯となりて不味なり、ゆえになるべく使用せざるを可とす。
二、焦げ止め器を使用する場合
(1)平釜に水三六リットル〔二斗〕を入れ沸騰せしむ。
(2)右沸湯の中へ米麦二二・三キログラム〔約一斗七升〕を入れて炊く。
(3)ふたたび沸騰後約五分間炊き、火を引き、そのまま、または釜を下ろして十五分間以上蒸らす。
(注)焦げ止め器を使用せば、中釜の長所を取り短所を除くことを得るものなり。
三、平釜のみを使用する場合
(1)平釜に水三六リットル〔二斗〕を入れて沸騰せしむ。
(2)右沸湯中へ米二二・三キログラム〔一斗七升〕を入れて炊く。
(3)ふたたび沸騰し来らば直ちに火を引くか、または釜を下ろして七島表〔鹿児島県宝七島に産する畳 表〕その他清潔なる蓆の上に布を敷きたるものに移し、二十分間以上蒸らす。
(注)この方法はじゅうぶん会得すれば最も迅速かつ燃料経済にして、絶対に焦げ付くことなし。
ただし沸騰後直ちに火を引くか、釜を下ろさざれば焦げ付きを生ずるおそれあり。またじゅうぶん蒸らす必要あるものとす。
ロ、個人炊事
戦地(野外)における個人炊事は飯盒を使用するものなり。よって左にその使用法を述ぶべし。
飯盒炊事にありては、副食物は調理を要せずそのまま食用し得るか、または長く煮る必要なきものを選ぶを便とすといえども、温食給養、現地における生物の利用等の必要ある場合において
は、合同炊事と同様複雑なる副食調理を実施せざるべからず、これがため飯盒の使用法には左の二法あり。
(1)一個の飯盒にて主食、副食(掛盒使用)を同時に炊くもの。
(2)数個の飯盒をもって組を作り、一部の飯盒にて主食を、他の飯盒にて副食をべつべつに炊くもの。
右二法のうち前者は、飯盒そのものの構造上、すべての副食調理にたいし完全に行うことを得ず。蓋し飯盒の本盒と掛盒とは、その受くる火力に相違あるのみならず、かりにこれを同一とす
るも、飯の出来上がる時間以内に煮える副食物にあらざれば調理不可能にして、したがって掛盒をもって煮たる副食物、殊に生野菜、生肉等はたとい完全に煮えたりとするも、調味品の浸み込
み悪しく「水ッポイ」不味なる出来栄えとなるを免れざるものとす。
ゆえに左の場合を除くほか、普通の場合にありては(2)の方法により組を作り、副食物は別に炊くを可とするものなり。
*掛盒〔飯盒の内側に掛けられる副食用の容器〕
ハ、一個の飯盒にて主食副食共に炊く場合
(1)唯一人にて他に相手なきとき。
(2)混ぜ飯を炊くとき。
(3)長く煮る必要なく、単に温め、または殺菌する程度に副食物を煮るとき。
而して右いずれの場合にありても、火焔の先端が飯盒の底部に触るる程度に火を焚き、沸騰後約五分問ののち火より下ろして、蓆または藁等冷たからざる物の上に置き、十分間以上蒸らすも
のとす。